【モバマス】関裕美「た、短篇集?」
正直に言えば、私は目つきが良くないと思う。
実のところ、これは緊張しているからだけど、他人から見れば殆ど見分けが付ない。
今となっては大分ましになった気がするけど、根っこは昔の私のまま。
「……な、なんか怒ってるか?」
引き攣った顔のプロデューサーさんが目を瞬かせて呻くように尋る。
怒ってない。これは怒っていない顔だけど。……多分。
例え、プロデューサーさんが目に隈を創り、机に突っ伏していても。
デスクの端にはスタドリの瓶が転がり、企画書と書かれた書類にプロデューサーさんの涎が掛かっていてるけど。
「やっぱりなんか怒ってないか!?」
怒ってない。これは怒っていない顔だよ。
明らかに徹夜明けといった風貌の彼に私が口やかましく苦言を呈するのは間違い……なんだと思う。
お仕事だから。きっと私たちに関するお仕事。感謝をするのはともかく怒ることなんて私にはとても出来ない。
「ちょっと顔がーーぐぎゅ」
彼のほっぺたを摘み、左右に引き伸ばす。
……男の人のほっぺたってもっと硬くてごつごつしているのかと思ったけど意外にやわらかくて少しびっくりする。
新鮮な感覚。
「うぐぎゅぎゅ……やっはりおこっへ」
「笑顔のお裾分けです」
「ふぇ」
そう、これはただの笑顔のお裾分けであって怒っているわけではないのだ。
かれこれ十分ほど頬を引き伸ばしてから私は満足した。
尊厳がなんとかと項垂れるプロデューサーさんを横目に小さく笑います。
「じゃあちょっと外回りに……」
じっとプロデューサーさんにただただ視線を向け続けます。
「や、やっぱ仮眠取ってくるわ」
「うん。おやすみなさい」
今日は朝からちょっと役得だったかもしれない。